シュレーディンガーの猫
ここでは東洋医学の科学的根拠を主張するために解かなければならない量子論の謎「シュレーディンガーの猫」について紹介したいと思います。
あるミクロ粒子に関する実験によって、「一粒のミクロ粒子が二つの隙間を同時に通過する」という事実が判明しました。この現象は、テニスボールのようなマクロの物質では不可能なことです。量子論とは、おおざっぱに言うと、「一粒の粒子がどうやって二つの隙間を同時に通過するか」を論理的に考えるものです。
ひとつの物質がどうやって二つの隙間を同時に通過するのか?
量子論の研究者は、この問題の答えについて「ミクロの粒子は波の性質をもっている」と考えました。波は移動するとき広がって行きますから、二つの隙間を同時に通過することができます。じつは二つの隙間を同時に通過した証拠というのは、波の痕跡のことだったのです。
ところが「ミクロ粒子が波の性質をもっている」というミクロ世界の自然観は、私たちの日常世界、つまりマクロ世界の自然観では、到底あり得ないことのように思えます。それは、マクロ世界では、粒子と波動には決定的な性質の違いがあり、両方の性質をあわせもつことは考えられないからです。
粒子とは体積と質量を確認できる小さな「塊」のことです。これに対して波というのは、物質の運動が隣接する他の物質に次々と伝わり広がる「現象」のことです。
波には必ず媒質(波を伝播させる物質)が必要です。例えば水波は最も身近にみられる波のひとつですが、水波の媒質は水になります。波は物質の運動が隣接する他の物質に伝わる「現象」なので、水波の媒質となる水分子は複数必要になります。
下の図では赤い粒子の運動が青い粒子に伝播することで波が発生していますが、赤い粒子が一つでは上下運動(振動)にしかなりません。つまり一粒の粒子が波状になることは原則不可能なのです。
量子論の研究者は「波状になっている粒子」を発見しようとしましたがうまくいきませんでした。絶対に目には見えないけどミクロ粒子は波のように振る舞っている・・ 波状の粒子とはいったい何なのか?
深い考察の結果、量子論の研究者は以下のような解釈を打ち立てました。この解釈は「コペンハーゲン解釈」といわれ、量子論の主流となる考え方になります。
「コペンハーゲン解釈」
・ 人間が見ていないとき、ミクロ粒子は波のように広がっている。
・ 波のように広がっているのは、ミクロ粒子が様々な場所にいる確率が共存している状態である。
・ 人間が粒子の波を見ると、波は一点に収縮し、粒子の位置が確率的に決まる。
・ 人間が見るのをやめると、ミクロ粒子は再び波のように広がる。
ミクロ粒子の振る舞いは「だるまさんが転んだ」みたいなもので、人間が見ているときは波状にならないということになります。ここで問題となるのは、観測前の粒子の状態は判らないのではなく、決まっていない、もっと言えば、自然界は人間が認識しているときだけ現実化すると考えなければならないことです。
「自然界は人間が認識しているときだけ現実化する」という結論は、人の意識や精神を尊重するスピリチュアル系の分野に多く受け入れられているようで、「引き寄せの法則」などは、この量子論的な考え方が基本的根拠となっていると思われます。また現代医療においても、さまざまな疾病の根本原因が、精神的要因によるものだと考える動きも出てきているようです。今では多くの人達に受け入れられているコペンハーゲン解釈ですが、提唱された当時は、物理学者の中には反対を唱える人が多くいました。
オーストリアの物理学者エルヴィン・シュレーディンガー(1887~1961)も、コペンハーゲン解釈に反対した人間の一人でした。彼は、「量子論が完全に正しいとするなら奇妙な猫の存在を認めなければならない」というパラドックスを考案し量子論の不完全性を訴えました。それが「シュレーディンガーの猫」です。
「シュレーディンガーの猫」
内部を観測できない箱の中に、放射性物質、放射線検出器、ハンマー、毒薬の入った瓶と一匹の猫を入れて蓋をします。箱の中では「放射性物質」が放射線を放出すると、「検出器」が感知して「ハンマー」を操作します。そして「ハンマー」が「毒薬の入った瓶」を割ると「毒薬」が流れ出し、「猫」が死ぬという仕組みになっています。つまり猫の生死は、放射性物質が放射線を放出するかどうかと直結しています。
コペンハーゲン解釈によれば、箱の中の放射性物質は観測されていないので、波状になって箱の中を広がり、放射線を放出したかどうかは決まっていないことになります。箱を開けて確認したとき、波が収縮し放射線放出の有無が確定するのです。では、放射性物質と同じ箱の中にいる猫は、蓋を開けて確認する前の状態は、どういう状態になっているのでしょうか?
猫の生死は、放射線が放出されるかどうかで決まります。ところが蓋を開ける前の放射性物質は、放射線を放出したかどうかが決まっていないのですから、猫の生死も蓋を開けるまで決まらないことになります。生きている状態と死んでいる状態、そのどちらにも決まっていない猫とはどういうものなのか。誰もが納得する完全な説明は、未だになされていません。
東洋医学の科学的根拠を求めて、気を量子論で解明してみようとしたところ、シュレーディンガーの猫というパラドックスにぶつかってしまいました。気は万物を構成するミクロ物質であり、人間がマクロ世界の住人であるとすると、気と人間の間には、放射性物質と猫の間に生じる矛盾と同じ矛盾が存在することになります。鍼灸による気の調整で人間に治癒という現象が起きているのならば、その機序を解明するためには、シュレーディンガーのパラドックスを解かなければならなかったのです。
このサイトでご紹介する仮説は、この謎を解く自然観に基づいて立てられたものです。