はじめに
1. 身体的症状と精神的要因には密接な関係がある
学校に遅刻しそうな時刻に家を出ようとすると、急にお腹が痛くなって、恐る恐る親に学校を休みたいと言う。 親は「少しくらいの痛さなら我慢して行け」というプレッシャーをかけつつも、学校に休みの電話をしてくれました。 不思議なのは、親が学校に連絡しているとき、すでに腹痛が無くなっていることでした。 なんだか仮病を使ってズル休みをした罪悪感。 小学生の頃、そんなことがときどきありました。
好きな作業と嫌いな作業とでは集中力が違ったり、好きな食べ物は別腹で入ったり、苦手な人と会わなければならないときに胃が痛くなったり・・ どうやら人間の「好き・嫌い」と、その人の体調や状況には大きな関わりがあるように思えます。
鍼灸師という職業がら、身体の不調を訴える人と接することが多々ありますが、ほとんどの場合、施術の過程でみえてくる症状の原因には、精神的なものが関与していると感じます。 それも「好き=健康」「嫌い=病気」といった、単純なものではなく、もっと心の奥にあってかなり複雑な、しかも当人も自覚していないものです。これまでの臨床経験の中で、圧倒的な回復力を発揮した人や症状を完全に克服した人から共通して感じるのは、その人たちは自分の精神的要因との向き合い方に変化が起きたのではないかということです。
2. 身体的症状と精神的要因の理論体系が欲しい
何らか身体的症状を抱える人たちがその症状を克服するにあたって、精神的要因との関わり方を変える必要があるのだとして、施術の傍ら、自分なりに感じた精神的要因について話をすることもあるのですが、多くは拒否されるか違った解釈をされます。心の深層部分に触れられるのが嫌だからなのか、感じた見立てが間違っているからなのか・・ 見立て自体も明確な根拠を示すことができないし、直感的に感じる身体と精神の関わりについて具体的に語ることもできない。だから身体的症状と精神的要因の理論体系が欲しいと思いました。
3. 陰陽物理学とは
サイト名にもある「陰陽物理学」というのは、一介の鍼灸師が東洋医学における「気」の正体を追求するために構築した、東洋医学と物理学の融合理論のことです。本来は鍼灸の治療機序を明確に記述するために作られたものですが、理論の発展とともに身体と精神の関係性について考えるものになりました。
東洋医学における「気」は、万物を構成するこの世で最小の基本的物質であるとされています。現代物理学の根幹ともいえる量子論は、電子やクォークといったミクロ粒子の物理法則を取りまとめたものです。ということは「気」が実在するものであるならば、その振る舞いは量子論の法則に従っていなければなりません。陰陽物理学は、東洋医学の気に関する言い分を量子論と照らし合わせて考えることから始まりました。
ところが間もなく、量子論には「シュレーディンガーの猫」という未だ明解な解決法の無いパラドックスがあることを知りました。「シュレーディンガーの猫」は、ミクロ世界とマクロ世界に生じる矛盾を指摘するものなのですが、鍼灸の治療機序を解明するのに、この矛盾の解消が不可欠なものとなりました。
鍼灸では「万病の原因は気の失調によるものであり、人体の治癒は気の調整をすることによって起こる」とされています。先に述べたように気はミクロ世界の存在です。そして人間はマクロ世界の存在ですから、鍼灸の治療機序には「シュレーディンガーの猫」と同じ矛盾があることになります。つまり鍼灸の治療機序を明確に語るには量子論のパラドックスを解消しなければならないのです。
4. 矛盾を解消するにはどうしたらいいか?
何か未知なるものを解明するとき、それも厳密に、論理的にやるにはどうしたらいいか? その方法について、アメリカの物理学者リチャード・ファインマン(1918~1988)は「制約のある想像力」が必要であると言っています。「制約のある想像力」とは以下のようなものです。
・ これまで証明されたことと全く矛盾することなく
・ これまでと全く違う新しい何かを想像し
・ これまで証明されたことのない謎をうまく説明する
物理学者は証明したい未解明の謎を既存の物理学で証明しようとしたのではなく、その謎をうまく説明できる「新しい何か」を想像することから始めたというのです。これに従い、以下のような論理展開を行いました。
・ 量子論と全く矛盾することなく
・ 東洋医学の陰陽論と物理学の相対性理論を融合した新しい自然観を想像し
・ 「シュレーディンガーの猫」をうまく説明する
このサイトは「制約のある想像力」によって考え出された「新しい自然観」に基づいて導かれた、身体と精神の関係性についての仮説を紹介するものです。